京料理のルーツを辿る

京料理の歴史は1200年にわたり、日本料理の変遷そのものといえる深い背景を持っています。その始まりは、皇族や公家の間で接待の形として広まった「大饗料理」でした。その後、武家時代に入ると、武家文化の中で「本膳料理」が発展し、同時期に公家の間では「有職料理(ゆうそくりょうり)」が洗練されました。さらに、仏教の影響を受け、動物性食材を使用しない「精進料理」が生まれ、茶道の精神とともに「茶懐石」が発展しました。そして江戸時代には民衆にも広がった「会席料理」が誕生し、これらの変遷を経て現在の京料理が形作られました。京料理はこうした歴史や文化が織り重なってできた料理であり、その一皿一皿に京都の伝統が込められています。歴史を感じながら味わうことで、その奥深さと美しさをより一層感じることができるでしょう。

※「茶懐石」と「会席料理」の違い・・・「茶懐石」は茶道でお茶を楽しむための軽めの料理、「会席料理」はお酒を楽しむ場でのフルコース料理が基本的な考え方です。ただし、近年では「懐石」と「会席」という言葉が混同されることもあり、表現が施設ごとに異なる場合がありますのでご注意ください。

京料理の理念

京料理は、「医食同源」の精神を基軸とし、「割主烹従(かっしゅほうじゅう)」を基本理念に据えています。この考えに基づき、走り(旬の始まり)、旬(最盛期)、名残(旬の終わり)のエッセンスを取り入れた献立を作成し、季節の移ろいを五感で楽しめるよう工夫されています。これらの背景を理解しながら味わうことで、京料理をより深く楽しむことができるでしょう。

※1 医食同源:薬と食は同じ根源にあるとする考えをもとに、日本で発展した理念で、日々の食事によって健康を増進するという思想です。
※2 割主烹従:「割る(切る)」を主とし、「煮る・焼く」を従とする考え方で、まずお造りをどうするかを考え、それに基づいて献立全体を組み立てる基本理念です。

KAISEKI料理の今昔物語

KAISEKI料理のコースは、先附(さきづけ)・八寸(はっすん)・向附(むこうづけ)・煮物椀(にものわん)・炊合(たきあわせ)・焼物(やきもの)・お凌ぎ(おしのぎ)・蒸し物・酢の物・留め椀(とめわん)・ご飯・香の物・水物で締めくくられるのが一般的です。西洋料理のような「メイン料理」が存在しない点が特徴で、稀にその点を物足りなく感じる方もいらっしゃいます。しかし、これはKAISEKI料理が一つの物語のように、全体を通して料理を楽しむ構成になっているためです。

1200年もの歴史を持つ京料理は、伝統を守りながらも常に新しい挑戦を続けてきました。かつては、宗教的な背景や社会的な影響により、4足歩行動物の肉(牛や豚)はほとんど使用されず、肉料理といえば鶏肉が主流でした。しかし、時代の変化とともに牛肉や豚肉も取り入れられ、京料理の幅がさらに広がっています。

こうした進化を遂げながらも、京料理はその根幹である繊細な味わいと美しい盛り付けを保ち続けています。将来、KAISEKI料理にもメイン料理と呼ばれるような新しい形が生まれるかもしれません。この伝統と革新が共存する姿勢は、京都人にとっても楽しみな一面です。

※4足歩行動物の肉を避ける背景…古代日本では、宗教的な影響や農耕文化の発展により肉食が制限されてきました。特に神饌として穀類が尊ばれるようになると、自然の神々を崇める暮らしの中で肉食を避ける文化が根付いたとされています。

京料理における3つの「五」

京料理(日本料理)の基本理念には、「五味」「五色」「五法」があります。それぞれが料理の美味しさ、見た目、調理法に深く関わり、日本料理の魅力を構成しています。
• 五味:甘い、辛い、しょっぱい、苦い、すっぱい
味の対比や相乗効果を活かし、バランスの取れた味わいを楽しめます。
• 五色:緑、赤、黄、白、黒
見た目の美しさを大切にし、色彩豊かな盛り付けが特徴です。
• 五法:生、焼、揚、煮、蒸
多彩な調理法を用いて、料理ごとに異なる食感や風味を引き出します。

これらの要素が組み合わさることで、京料理は視覚的にも味覚的にも豊かで洗練された一皿を提供します。

※なお、生食については海外では妊娠中の魚介類の生食を避ける習慣があり、日本にも影響を与えています。気になる場合は、事前に旅館に相談すると対応してもらえることがありますのでご安心ください。

日本料理を引き立てる日本酒

京都は名水の地として知られ、特に伏見地区は古くから日本酒造りが盛んな地域です。米から作られる日本酒は独特の風味と香りを持ち、健康や美容にも良いとされています。京料理を楽しむ際には、ぜひ京都の地酒をお試しください。

京料理と日本酒は、大昔から日本人に愛されてきた組み合わせであり、一緒に味わうことで日本の食文化をより深く楽しむことができます。また、京料理には日本酒によく合う珍味も使用されています。以下はその一例です。
• からすみ:ボラの卵の燻製
• このわた:なまこの腸の塩漬け
• このこ:なまこの卵巣の塩漬け
• うるか:鮎の内臓の塩漬け

これらの珍味は、日本酒の風味を一層引き立てる名脇役です。京料理とともに地元の日本酒を楽しむことで、京都ならではの食文化を存分に味わうことができるでしょう。

日本の食文化よもやま話

日本を含む東アジアの食文化圏に欠かせない存在、それがお箸です。近年、日本の若者の中には正しいお箸の持ち方ができない人も増えていますが、逆に日本文化に興味を持つ海外の方々が驚くほど上手にお箸を扱う姿を見ることも少なくありません。

また、日本を含む東アジアの食文化の中心にはお米があります。お米に含まれる糖質は、我々アジア人の活動力の源です。特に日本の「ジャポニカ米」は粘り気が特徴で、東南アジアで主流の「インディカ米」とは異なる食感と味わいがあります。この味わいは長年の品種改良の成果であり、本場の日本料理には日本の土で育ったお米が最もよく合います。

さらに、日本には食事の際に大切にされている言葉があります。

いただきます:食事を始める前の挨拶で、ただ「食べる」というだけでなく、食べ物やそれを提供してくれる全てへの感謝、命をいただくという意味が込められています。

ごちそうさまでした:食事を終えた後の挨拶で、料理を作ってくれた人や食材への感謝を表す言葉です。

こうした言葉に込められた感謝の気持ちは、日本の食文化の根幹を成しているといえるでしょう。

旅館で楽しむ日本料理の利用方法

旅館は宿泊しなければ利用できないと思われがちですが、ランチやディナーだけの利用が可能な旅館も数多くあります。ホテルに宿泊しながら、旅館で日本料理を楽しむという選択肢もおすすめです。ぜひ旅館をレストランとして気軽にご利用ください。

ただし、京料理をはじめとする日本料理は、仕込みに時間と手間がかかるため、事前予約が必要です。職人の伝統技術を活かした料理が無駄にならないよう、直前のキャンセルはお控えいただけると幸いです。旅館での食事を通じて、日本料理の魅力を存分にお楽しみください。